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いちから学ぶ がんと免疫

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3. 免疫編集Ⅱ 平衡相~逃避相3. 免疫編集Ⅱ 平衡相~逃避相

生体には、Cancer-Immunity Cycleという、がんを排除するしくみが備わっています。それにもかかわらず、なぜがん細胞は増殖を続け、臨床でがんとしてみつかるのでしょうか。平衡相から逃避相でがんが生じる過程をみていきましょう。

ドクターイラスト

監修:国立がん研究センター 研究所 腫瘍免疫研究分野/先端医療開発センター 免疫TR分野 分野長
名古屋大学大学院 医学系研究科 分子細胞免疫学 教授 
西川 博嘉 氏

平衡相から逃避相へ1、2)

免疫原性の高いがん細胞は、排除相でCancer-Immunity Cycleによって排除されますが、一部のがん細胞は免疫系の攻撃対象となるような免疫原性の高い抗原を消失させたり、がん抗原を提示する主要組織適合遺伝子複合体(Major histocompatibility complex:MHC)分子を消失させたりして、免疫原性の低い自己もどきになることで(免疫選択)、免疫系からの攻撃を受けず残存して平衡相の段階へ進みます。ここでは長期にわたって免疫系とがん細胞との間で相互作用がはたらきながら平衡状態を保っています。
逃避相ではがん細胞と免疫系の平衡状態が崩れます。がん細胞は制御性T細胞(Regulatory T cell:Treg)、骨髄由来抑制細胞(Myeloid-derived suppressor cell:MDSC)といった免疫抑制細胞や免疫チェックポイント分子といった免疫抑制分子を積極的に活用して抗腫瘍免疫応答を抑制し(免疫逃避)、生体内で増殖します。

がん細胞が生き残るしくみ 免疫選択と免疫逃避

文献1、2)より作成

免疫選択2)

免疫原性の高いがん抗原の消失 2)
免疫原性の高いがん抗原をもつがん細胞が免疫系の攻撃対象となり、排除相で除去されていくなかで、免疫原性の低いがん抗原をもつがん細胞は免疫系の攻撃をかいくぐって生き延びます。こうして生き延びたがん細胞は免疫原性の高いがん抗原をもたず、自己もどきとなっています。
主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子の消失 3)
がん細胞は自身のがん抗原の断片(ペプチド)をMHC分子の上に提示しており、それが活性化T細胞に認識されることによって攻撃を受けます〔2. 免疫編集Ⅰ 排除相:がん細胞認識(STEP⑥)、攻撃・排除(STEP⑦)参照〕。しかし、この攻撃を逃れるためにがん細胞は、本来がん細胞表面にあるはずのMHC分子を発現低下・消失させている場合があります。つまり、がん抗原を提示する台座であるMHC分子を消失させることで、抗原提示を成立させず、免疫系から逃れると考えられます。
免疫選択

文献3)より改変

免疫逃避

制御性T細胞(Treg)の関与 2、4)
Tregは免疫応答を負に制御するT細胞で、さまざまな免疫抑制機構をもちます。Tregに発現するCTLA-4はB7(CD80/CD86)と相互作用することで共刺激シグナル(CD28などを介したシグナル)伝達を抑制し、T細胞の活性化を抑制します(詳細は 4. 免疫チェックポイント分子を参照)。また、TregはTGF-β、IL-10、IL-35などの免疫抑制性サイトカインを放出して免疫応答を抑制します。さらにTregは、Fas-Fasリガンドシグナルにより、活性化T細胞に直接作用してアポトーシス(プログラムされた細胞死)を誘導するほか、パーフォリン/グランザイムといった細胞傷害因子によってもT細胞にアポトーシスを誘導します。
骨髄由来抑制細胞(MDSC)の関与
MDSCは、免疫抑制能をもつ未熟な骨髄系の細胞群です5)。アルギニン分解酵素や一酸化窒素合成酵素、免疫抑制性サイトカインを産生し、これらの液性因子のはたらきやTregをがん局所に引き寄せることによりT細胞の活性化を抑えます。また、アルギニン分解酵素や一酸化窒素の合成は栄養素の枯渇をもたらし、殺傷性免疫細胞の機能を抑制します4)
免疫逃避

免疫チェックポイント分子はT細胞の活性化に伴って誘導され、過剰な免疫応答を抑制するための分子群です。免疫チェックポイント分子によるがん免疫応答の抑制は 4. 免疫チェックポイント分子をご参照ください。

引用文献
1. 高塚奈津子ほか. 臨床泌尿器科. 2017;71:16-22.
2. 西川博嘉. がん免疫療法. 2017;1:20-25.
3. 玉田耕治. やさしく学べる がん免疫療法のしくみ, p17-20, 羊土社, 2016
4. 杉山大介ほか. 医学のあゆみ. 2016;258:445-450.
5. 岡三喜男. 読んで見てわかる免疫腫瘍学, p72, 中外医学社, 2017

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